三位一体の未成熟

今日は。暑さ続きますね。我が家の庭の朝顔もあまりの暑さに、昼間はぐったりです。

さて本日は久しぶりに「生活と自治」という生活クラブ発行の月刊誌の記事をご紹介します。

タイトルは、三位一体の未成熟です。

停止しない思考 「共生」の営みが危機にさらされる時代に、思考を停止しないことにこそ希望はある。

三位一体の未成熟  森達也


国境なき記者団が発表する報道の自由度ランキングにおいて、フィンランドはノルウェーと並んでほぼ毎年、1位か2位にランクインしてきた。この5月に発表されたばかりの2022年度ランキングでは、僅差で5位だったが、上位を北欧勢が独占する状況は変わらない。ちなみに日本は昨年から四つ順位を下げて71位だ。そのフィンランドが自由度ランキング2位だった20年1月、首都であるヘルシンキの映画祭に「i-新聞記者ドキュメント-」が招待された。メイン会場で上映後、監督と観客とのディスカッションが行われたが、「記者クラブが存在する意味と理由が分からない」「官邸記者会見の雰囲気が理解できない」「記者としての当り前のことをしている(東京新聞の)望月衣塑子記者がなぜあれほどに反発を受けるのか」などと質問された。要するにジャーナリズム先進国に暮らす人たちにとって、日本のメディアの状況は遅れていると感じるレベルではなく、ほぼ理解不能らしい。独裁国家はメディアを弾圧する。しかし日本の場合、あからさまな弾圧はほぼない。でもメディアが自ら権力の意向を忖度する。都合の悪い質問はしない。それがフィンランドの人たちにはわからない。なぜだと質問されても僕だってわからない。

印象的な質問としてはもうひとつ。「なぜメディアや国会の現場に女性が少ないのか」という質問があった。現在の日本の女性議員比率は世界166位。もちろんG7諸国では最低だ。フィンランドの女性国会議員の比率はほぼ半分。サンナ・マリン政権発足時の内閣閣僚19人中12人が女性。連立政権5党の党首は全員女性で、マリン首相を含む4人は当時35歳以下だった。サンナ・マリンが幼いときに夫と離婚した母親は、女性パートナーと二人で娘を育てた。生活は厳しく、サンナ・マリンは10代のころからアルバイトで生活を支えていた。フィンランドでは3人目の女性首相で就任時は34歳。もちろん二世や三世議員でもない。日本でこのような人が首相になる時代はいつなのだろう。上映が終わってヘルシンキのホテルで何気なくテレビのスイッチを入れた。複数の一般家族が自宅からリモートで参加するというバラエティー番組だったが、男性のみのカップル、女性のみのカップルも当たり前のように登場していた。
だからあらためて思う。メディアと社会と政治は三位一体。日本はいまだにかろうじて経済大国かもしれないけれど、この3つにおいてはまだまだ未成熟な後進国だ。
生活と自治 2022年7月号

(了)